東京地方裁判所 昭和44年(借チ)1003号 決定
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〔主文〕1 申立人が、別紙目録(一)記載の土地上にある同目録(二)記載の建物を取り毀し、同地上に同目録(三)記載の建物を新築することを許可する。
2 申立人は、相手方進藤庄兵衛に対し、金三七万円の支払をせよ
3 相手方寺尾孝に対する申立を却下する。
〔決定理由〕1 申立人は、相手方進藤庄兵衛から昭和二九年九月一五日別紙目録(一)記載の土地(以下本件土地という。)を木造建物所有の目的、期間二〇年の約で賃借し、同地上に同目録(二)記載の建物(以下本件建物という。)を使用している。
2 申立人は、本件建物を取り毀し、本件土地上に同目録(三)記載の建物を新築すべく計画し、本件賃貸借契約には増改築禁止の特約が存在するので、増改築につき相手方らの承諾を求めたが、明確な回答を得られないので、賃貸人の承諾に代わる許可の裁判を求める。
3 本件賃貸借契約は相手方進藤庄兵衛との間に締結したのであるが、本件土地の所有権の帰属につき相手方両名の間で係争中であるので、右両名を相手方として本件申立をした。
〔決定理由〕 本件の資料によれば、申立の要旨1、2の事実のほか本件改築は、既に江東区役所建築主事の確認を得ているのみならず、土地の通常の利用上相当であると認められるので、本件申立は、相手方進藤庄兵衛との間において、これを許可すべきである。
申立人は、相手方寺尾孝をも本申立の相手方としているが、同相手方は賃貸人でないのであるから、同相手方に対する申立は、不適法であり、却下すべきである。
次に、附随の裁判について考える。
申立人は、本件改築許可の裁判により、本件改築をなしうる権利を新たに取得することになるが、右権利を実現した場合、それは、具体的には、借地上の建物の耐用年数の延長、借地上の建物価格の増加及び借地利用効率の増加となつて現れる。以下、右の具体的変化の個々につき、それと当事者の利益の衡平を図る必要の有無の関係について検討する。
(一) 建物の耐用年数の延長
建物の朽廃が借地権消滅の事由である場合に、借地上の建物の耐用年数が延長されることは、建物の朽廃による借地権消滅時期が延びることになり、このことは、賃貸人に不利となる。本件借地権の期間は合意で二〇年と定められており、昭和四九年九月一四日満了するが、その後法定更新されるものとすれば、本件の場合も建物の朽廃が借地権消滅の事由になり、本件許可の裁判は、借地上の建物の耐用年数が延長され、借地権消滅の時期が延びる点において、賃貸人たる相手方進藤庄兵衛に不利に働くので、当事者の利益の権衡を図る必要がある。
(二) 建物の価格の増加
改築後の建物の方が本件建物より価格の点において優ることは明らかである。この価格の変化は、賃貸人が更新を拒絶し、借地人から建物買取請求権を行使されたときに影響をもたらすが、将来賃貸人において正当に更新を拒絶しうるものかどうかは予測できないことであるので、この点は、財産上の給付を考える場合、考慮の外におくほかはない。
(三) 借地の利用効率の増加
本件改築後の建物は、本件建物に較べ、床面積がはるかに大きく、借地人としては本件土地を従前より効率よく利用することができ、この意味での借地の利用効率の増加ということは考えられる。しかし、右利用効率の増加が賃貸人に不利益を及ぼすものと考えられず、また、右利用効率の増加は、借地人の資本投下によるものにして、これによる借地人の利益を賃貸人に配分せしむべきいわれもないので、右利用効率増加の点は、財産上の給付につき考慮する必要はない。
以上の検討からして、財産上の給付につき考慮すべき点は、本件改築により借地上の建物の耐用年数が延長されるということに尽きる、建物の耐用年数が延長されることに伴う借地人の利益及び賃貸人の不利益をどう評価するかは、本件改築をなしうる権利の価値を経済的にどう評価するかということであり、それは、本件改築をなしうる権利を付与されたことによる本件借地権価格の変動を把握することでなければならない。不動産の鑑定において借地権価格を評価する場合、借地権割合を求めるのが通例のようであるが、右の割合は、借地契約の具体的内容の差異に留意することなく、借地権一般としての割合を求めるのが実情である。しかし、同じく借地権といつても、増改築禁止の特約のない借地人にとり有利なものもあれば、右特約のある不利なものもあり、その価格に差があり、借地権割合も異るべきは、当然のことゝ思われる。本件改築許可の裁判は、本件改築についてのみ増改築禁止の特約を一時的に排除するものとして、右特約の全面的排除ではないので、本件許可の裁判により形成される借地権の価格は、右特約のない価格と右特約のある価格との中間に位置づけられることになる。借地非訟事件を扱つていると、堅固建物所有目的の借地権の割合と非堅固建物所有目的の借地権の割合との差は約一〇%であるというのが鑑定委員会の意見の大勢である。この場合、非堅固建物所有目的の借地権については、増改築禁止の特約の有無についての区別をしていないようであるが、右特約のない非堅固建物所有目的の借地権は、堅固建物所有目的の借地権とその実質的価値において異らないというべきであるので、右借地権割合の差は、厳密にいえば、堅固建物所有目的の借地権と増改築禁止特約付の非堅固建物所有目的の借地権との比較についていわれるべきものである。従つて、増改築禁止の特約のない借地権の割合と右特約のある借地権の割合との差も約一〇%と見るのが相当であり、本件に限らず、増改築許可の裁判を得た後の借地権の土地価格に対する上昇率は、一〇%内ということができる。本件改築は、新築であり、かつ、鉄骨を用いる点において、従前の木造建物に附加する増改築に比較し、耐用年数において大きな開きがあり、本件の資料によれば、本件建物の残存耐用年数が数年であることが認められ、残存耐用年数が十分ある場合の増改築に比較し、借地人にとつては有利、賃借人にとつては不利であるので、これらの事情を斟酌し、借地人たる申立人に命ずべき財産上の給付は、本件土地の建付地価格(鑑定委員会の意見に従い3.3平方米当り一九万四、〇〇〇円)の六%金三七万円(千円未満四捨五入)を相当とする。(小山俊彦)
目録
(一) 東京都江東区東砂四丁目三五〇番二田(現況宅地)373.55平方米(113坪)同所同番三田(現況宅地)383.47平方米(116坪)に跨る105.78平方米(32坪)
(二) 右地上に存在する。
木造平家建店舗兼居宅 床面積69.42平方米
(三) 陸屋根鉄骨造二階建店舗兼居宅
床面積 一階 58.32平方米
二階 58.32平方米
(鉄骨の厚さ3.23ミリメートルにして非堅固建物)